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合理的配慮はわがまま?特別扱いとの違いや本来の意味、カナダの事例を紹介

2024年から、日本で義務化された合理的配慮。
「合理的配慮って具体的にどういうこと?」「特別扱いとどう違うの?」「バリアフリーとの違いは?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
カナダでは、昔から学校や職場で当然のように行われています。障害当事者である私から見ても、合理的配慮が社会に浸透しているのを感じます。
この記事では、合理的配慮の本当の意味や、よく混同される関連用語との違いをわかりやすくまとめました。
- 合理的配慮の基本的な意味と英語でのニュアンス
- 「特別扱い」「わがまま」との具体的な違い
- 混同しやすい用語との違い
- カナダでの事例と日本との違い
合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある人が社会生活を送る際に直面するバリア(障壁)を取り除くための調整のこと。
2024年4月、日本の民間企業にも「合理的配慮」が義務付けられました。
具体例はこちら。
- 聴覚障害者:会議で手話通訳者を手配する
- 身体障害者:車椅子でアクセスしやすい席を用意する
- 精神障害者:休憩時間を柔軟に調整する
- 視覚障害者:文字資料を点字や音声で提供する
- 発達障害者:作業手順を分かりやすく説明する
重要なのは、これらは「特別扱い」ではなく、誰もが平等に社会参加するための当然の対応だということ。
「合理的配慮」という用語は、2008年に国連で発効された障害者権利条約 (英語原文) で使われている「Reasonable Accommodation」を日本語に翻訳したものです。
外務省公式サイトに日本語訳が掲載されています。
日本語訳の「配慮」が生む誤解
「合理的配慮」と聞くと、「配慮してもらう」「配慮してあげる」という上下関係を連想しませんか?
この日本語訳が大きな誤解を生んでいます。英語原文の「Reasonable Accommodation」には、「配慮」というニュアンスは全く含まれていません。
ケンブリッジ英英辞典によると、accommodation は「他の人とは異なるニーズを持つ人やグループのために作られる特別な取り決め」と定義されています。
a special arrangement that is made for a person or group that has different needs to others
ケンブリッジ英英辞典
ちなみに、思いやりという意味の「配慮」は、英語では「consideration」「thoughtfulness」という表現が一般的です。
より正確な翻訳は「合理的調整」
有識者の間でも「配慮」という翻訳への批判があります。英語原文を見ても「合理的調整」の方が翻訳としてふさわしいといわれています。
- システム全体の変更および調整
- 障害者も社会も、どちらも歩み寄る概念
- 平等な権利を実現するための手段
つまり「合理的配慮」とは、個人のニーズに応じて柔軟に仕組みを調整することです。
「わがまま」「特別扱い」との違い
「合理的配慮なんて、ただのわがままでしょ?」 「なんで障害者だけ特別扱いするの?」
こんな声を聞いたことはありませんか?
実際に、私も学生時代にリスニングのテスト免除について友人から「ずるい」と言われました。とても複雑な気持ちになったのを覚えています。
合理的配慮は「わがまま」ではありません。
誰かが得をするためではなく、公平な環境をつくるために必要なもの。
たとえば、車椅子の人がエレベーターを使うのは、目的地に行くための必要な手段です。
これは「Human Rights(人権)」の問題。人間として当たり前の権利です。
混同しやすいキーワード解説
合理的配慮について調べていると、「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」など、似たような言葉が次々に出てきて混乱しませんか?
ここでは、よく混同される4つのキーワードの違いを分かりやすく説明します。
- バリアフリー:物理的な障壁をなくす
- ユニバーサルデザイン:最初からみんなが使えるように設計
- アクセシビリティ:誰でも利用できる状態にする
- ユーザビリティ:どれだけ使いやすいか
全て「誰もが参加しやすい社会」を目指すための考え方ですが、アプローチが違います。順に見ていきましょう。
バリアフリー:物理的な障壁をなくす
バリアフリー(Barrier-free)は、すでに存在する障壁(バリア)を取り除くことです。
例)建物の入口にスロープを設けて段差をなくす
合理的配慮との違い
スロープが急すぎて車椅子で上がれない場合に、「お手伝いしましょうか?」と声をかけるのが合理的配慮です。
ユニバーサルデザイン:最初からみんなが使えるように設計
ユニバーサルデザイン(Universal Design)は、誰にとっても使いやすいように、最初から設計に組み込む考え方です。
例)建物の設計段階でトイレのドアを広くしたり、スロープを設けたりする
合理的配慮との違い
- 建物を設計する段階から車椅子ユーザーに配慮するのがユニバーサルデザイン
- すでに完成した建物で困っている人に別のルートを案内するのが合理的配慮
アクセシビリティ:誰でも利用できる状態にする
アクセシビリティ (Accessibility) の目的は、「誰でもアクセスできるようにすること」です。
バリアフリーやユニバーサルデザインも、アクセシビリティの一部といえます。
例)
- ウェブサイトで文字サイズを変更できる機能
- 音声読み上げ対応の画面設計
- 自動ドアや音声案内付きのエレベーター
合理的配慮との違い
- アクセシビリティは、みんなが使えるようにすること
- 合理的配慮は、困りごとに応じて個別に対応すること
ユーザビリティ:どれだけ使いやすいか
ユーザビリティ(Usability)は、「使いやすさ」のこと。「操作しやすいか」や「わかりやすいか」を含め、ユーザーが目的をスムーズに達成できるかどうかを指します。
Webサイトやアプリだけでなく、キッチン用品、車、家電など、あらゆる道具やサービスにも関係する概念です。
障害の有無に関係なく、すべてのユーザーを対象にして考えます。
例)
- 鍋のフタが熱くなりにくく開けやすい
- 車のスイッチやメーターが直感的に使いやすい
- ATMの画面表示が分かりやすくて操作ミスが起きにくい
アクセシビリティとの違い
- アクセシビリティ:使えるかどうか
- ユーザビリティ:どれだけ快適に使えるか
カナダの合理的配慮
カナダでは、1980年代から合理的配慮 (Reasonable Accommodation) の考え方が社会に根付いています。
障害者だけでなく、宗教や文化など多様な背景を持つ人々が対象になっています。
これは主に以下の2つの法律に基づいています。
合理的配慮に関する法律
Canadian Human Rights Act(CHRA)
1977年にできた人権に関する法律。
「障害」「宗教」「性別」など、13の理由による差別を禁止しています。
そして、差別を避けるための合理的な調整、つまり合理的配慮の提供が義務付けられています。
Accessible Canada Act(ACA)
2019年にスタートした新しい法律で、「社会の仕組み自体にある障壁をなくそう」という考え方が元になっています。
建物、サービス、テクノロジーなどあらゆる場面であらかじめバリアのない状態にすることを目指します。
誰もが暮らしやすい社会を実現するために、事前にバリアを特定し、予防・改善するアプローチです。
ざっくりまとめると
CHRAが「個別の差別」に対応するのに対し、ACAは社会全体の「障壁を取り除く」ことに重点を置いています。
- CHRA:個人の困りごとに対応する
- ACA:バリアを作らない社会づくり
こういった2つの視点から、多様な人々の権利が守られています。
カナダならではの事例
カナダでは、障害に限らず、宗教・文化・言語など幅広い多様性へ合理的配慮(調整)が行われています。
宗教・文化に関する配慮
多宗教・多文化へのごく自然な対応として、以下のような配慮が浸透しています。
- イスラム教徒の祈りの時間確保
- シク教徒のターバン着用許可
- ユダヤ教の安息日への配慮
移民の従業員が自国の祝日に休める制度を導入している企業もあります。
言語に関する配慮
言語の壁も状況によっては「障害」とみなされ、以下のような合理的配慮が行われています。
- 政府サービスの多言語対応
- 病院での通訳サービス提供
- 重要書類の翻訳提供
手話通訳などコミュニケーションに関する対応もスムーズです。
健康や体調への配慮
車いす対応の設備はもちろん、目に見えないニーズへの対応も進んでいます。
- 誰もが安心できる静かな環境づくり
- 光や音に配慮した空間設計
また、化学物質や香料に敏感な人のために、香水や柔軟剤を控える「香りのない職場(Scent-free workplace)」を実施している場所も多いです。
このようにカナダでは、個人レベルから社会システムまで、幅広い合理的配慮が行われています。
まとめ
合理的配慮は「わがまま」でも「特別扱い」でもありません。人間として当然の権利。
配慮ではなく調整。これを頭に入れておくだけでもぐっと理解しやすくなるのではないでしょうか。
誰もが同じスタートラインに立てるように調整するという発想が大切です。

