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北海道出身、カナダ在住8年目。難聴。トロントでのワーホリと留学を経て、現在はカルガリーでひっそりと暮らしています。

【先天性難聴】30代からの人工内耳【手術体験談】

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後ろ向きのうさぎが草の上でリラックスする様子

生まれつき難聴である私が、2018年に人工内耳手術を受けてから7年。

大人の人工内耳手術は中途失聴の方が多いと思いますが、この記事では先天性難聴である私の実体験をまとめました。

はじめに断っておきますが、このブログで無闇に人工内耳を勧めるつもりはありません。

補聴器で満足していた私が、なぜ人工内耳手術を決断したのか。聴力が低下してから手術を終えるまでの約半年間の記録です。

私の経験が、同じように悩んでいる方やご家族の参考になれば嬉しいです。

目次

第1章:聴力低下

30年間の補聴器生活

先天性両耳高度感音性難聴として生まれ、1歳から右耳に補聴器を装用してきました。左耳は補聴器の効果を感じず、物心ついた頃から自分でつけるのをやめました。

障害が発覚した1987年当時は日本に人工内耳が導入されたばかり。両親は人工内耳も検討したそうですが、当時の私の聴力は適応基準に達していませんでした。

30年以上、補聴器と共に生きてきた私。 財布や鍵は数えきれないほど失くしていますが、補聴器だけは失くしたことがありません。それだけ一時も手放さずに補聴器を活用していました。

人工内耳に興味を持ったことは一度もありませんでした。

失聴の前兆?

思い返せば失聴の数年前から、音が響くように聞こえることが増えました。うるさいわけではないけど煩わしいような、つんとした痛みが走る感じ。

今思えばこれが前兆だったのかなと思います。 自分でも気づかない間に少しずつ聴力が下がっていたのかもしれません。

旅行中の異変

2018年5月のマレーシア旅行中、とあるモールで休憩していたときのこと。がやがやうるさい店内が突然プツッと静かになり、プ・・・プーッ・・・と耳鳴りのような音が不規則に聴こえてきました。

あれ?疲れてるのかな?でも耳鳴りでもこんなにひどいものは経験がない。補聴器が壊れたのかもしれない。いや、そう思いたかった。

帰国後の診断

数日後、帰国したその足で補聴器店へ直行。しかし補聴器は全く壊れておらず、耳に問題がある可能性が高いとのこと。

行きつけの耳鼻科がなかったため、知り合いの紹介で有名な医師がいる病院へ。初診で人工内耳を強く勧められました。聴力検査の結果は 125dB 以上でスケールアウト。 改めてオージオグラム(検査結果のグラフ)を見ると、自分の目を疑うほど聴力が落ちていました。

ひとまず突発性難聴の薬を飲みながら考えましょうということで、医師の著書と人工内耳の資料をもらって帰宅。

人工内耳の相談に行ったわけではないのに… 医師の機械的な対応と、もう聴力が戻らないかもしれないというショックでしばらく立ち直れず、人工内耳を検討する気力も起きませんでした。

このとき過去最高の体重、人生初のギックリ腰も経験。今となっては笑える話です。

音のない世界

それまで補聴器で毎日音を聞いていた生活から一変、まったく音のない生活になりました。

もともと難聴なので「失聴」というのもおかしいし、きっと医学的にも「失聴」とは言わないと思います。でも補聴器で音を聞き取っていた私にとって、補聴器の効果がないほど聴力が低下したこの出来事は「失聴」以外にしっくりくる言葉が見つかりませんでした。

静寂の中で

漠然と、歳を取ればいずれ聴力は下がるだろうと予想はしていましたが、その生活がどんなものになるかまともに想像したことはありませんでした。静寂が日中ずっと続く日がこんなにも早く来るとは。

少しでも音や声が耳に入るのと入らないのでは世界が全く違います。太陽が出ているのに、横で車が走っているのに、まるで自分の時間だけ止まっているみたい。

私の場合は声も出なくなりました。無意識に喉の筋肉がこわばるのか、喉がつっかえて詰まったような感覚が続きました。

でもその分、集中力や視覚がより一層研ぎ澄まされる感覚もありました。五感のうち一つがなくなるだけでこんなにも変わるものなのか。

改めて(補聴器を使わない)ろうの人の気持ちや生活を理解することができた気がします。

心理的な変化

突発性難聴の薬が切れる頃には諦めもつき、もう聴力は戻らないということを受け入れる覚悟ができました。さて、これからどうしようか。NHKじゃないけど、ろうを生きるか、難聴を生きるか、それがどういうことかを考えさせられた半年間でした。

そんなときに話を聞いてくれた友人たちや家族、理解を示してくれた職場の人達には感謝してもしきれません。手話を覚えておいてよかった。色々な背景を持つ聴こえない友達がたくさんいてよかった。本当にそう思いました。

母いわく、私が1歳で難聴を診断された際に「進行性ではないが、思春期などで聴力が急に落ちる可能性はある」と言われたそう。 なぜ教えてくれなかったのか…それなら覚悟もできていたかもしれないのに。

第2章:人工内耳という選択

当初のイメージ

正直いって、以前は人工内耳にあまり良いイメージがなく、興味もありませんでした。見た目の割には効果がなさそうだという偏見もありました。

私が当時抱いていたイメージがこちら。

  • 補聴器と大して変わらない
  • 大人になってからの手術は意味がない
  • 電池代、メンテ代が高い
  • 頭痛や耳鳴りがひどくなる
  • 行動が制限される(MRIが使えない等)
  • 味覚障害や顔面麻痺のリスク

噂に聞くリスクを冒してまでやる価値があるのかどうかわからず悩みました。

情報収集

国内外の体験談

失聴してから暇さえあれば体験談を読み漁りました。日本語のブログはもちろん、海外のサイトも調べまくりました。英語を勉強しておいて良かった…! 情報量が格段に違うことを改めて実感しました。

調べていくうちに、自分が人工内耳に抱いていたイメージはほとんどが間違いだったことがわかりました。最も懸念していた「大人になってからの人工内耳の効果」についても、成人の成功例が想像以上に多いことに驚きました。

技術の進歩

人工内耳は、日本に導入されて30年以上が経ち、技術がほぼ確立されています。調べていくうちに、自分が知らないうちに目覚ましく進歩していました。

  • 手術方法の大幅な改善
  • 適応基準の拡大と保険適用
  • MRI対応機種の登場
  • サウンドプロセッサの進化

サウンドプロセッサとは、マイクから拾った音を電気信号に変換してインプラントに転送する機器。見た目は補聴器に似ています。

偏見って怖いですね。何事も知ろうとすることが大切だなあとつくづく思います。

参考になった書籍

この時期に読んだ聴覚障害関連の本で、特に印象に残っているのが以下の3冊。

サイボーグとして生きる

難聴者がリハビリを通して人工内耳に慣れていくまでの過程が事細かく描かれています。内容が古く、翻訳特有の読みにくさがあるものの、体験談に勝るものなし。

手話を生きる ― 少数言語が多数派日本語と出会うところで

人工内耳とは直接関係ありませんが、手話やろう文化ついて考えさせられる良書。また読みたい。

人生の途上で聴力を失うということ ― 心のマネジメントから補聴器、人工内耳、最新医療まで

中途失聴者の苦しみと葛藤。専門家や各方面へのインタビューも含まれていて参考になります。

決断までの葛藤

人工内耳をつけてもDeaf(ろう)であることに変わりはないし、聴者になれるわけではありません。

しかし調べれば調べるほど、当初抱いていたネガティブなイメージは払拭されていきました。また音が聞こえるようになる可能性が少しでもあるなら、やってみよう。もし効果がなかったら、それこそ潔く静寂の世界にどっぷり浸かろう。

音のない世界、補聴器の世界、そして人工内耳の世界と、生きてる間に色んな経験ができるなんて美味しいじゃないか。気づけばそんな心境に変わっていました。

そんなこんな流れで、2018年秋、人工内耳手術を受けることを決断しました。

第3章:病院選びから手術まで

病院選びで重視したポイント

知人友人からも情報を集め、以下の4つを重視して病院を選びました。

  • 手術実績・症例数:年間の手術件数と成功率、成人の手術経験の豊富さ
  • 取扱メーカー:複数メーカーから選択できるか、最新機種の取り扱い有無
  • アフターケアの内容:術後のフォロー体制、緊急時の対応
  • 言語聴覚士(ST)の評判:リハビリの質、成人患者への対応経験

都内で実績が多い4つの病院に相談に行き、最終的にT病院に決定しました。

最終決定の理由

決め手となったのは、主治医と言語聴覚士(ST)が親身になってくれたこと。 どんな疑問にも的確に回答してくれたので不安感を払拭することができました。

特に印象的だったのは、付き添いの家族と一緒に問診を受けた時も、常に私の目をみて話してくれたこと。これって当たり前のようで意外とできない人が多いと思います。ここなら信頼できる、安心して診てもらえると思いました。

また、リハビリで長い付き合いになるSTとの相性、交通の便も重視。あと、最近身内が入院したことがあり病院食が美味しいのを知っていたから。ごはん大事です。

術前検査(3ヶ月間)

手術を希望してから入院するまでの3ヶ月間、月2回、術前検査とカウンセリングに通いました。この検査で手術ができるかどうか最終的に決まります。

MRI検査で判明した内耳の状態

人工内耳では、拾った音を脳に伝達するインプラントを蝸牛(うずまき管)に埋め込むのですが、このインプラントが何らかの理由で入らない場合は「適応外」となり、手術を受けることができません。

私の場合はMRI検査で内耳に低形成(奇形)が見つかりました。 一般の人より蝸牛が小さいのですが、人工内耳はぎりぎり適応できるとのこと。初めて画像を見たときはなかなかショックでした。ちっちゃ…そもそも渦巻いていませんでした。

平衡機能検査の結果

平衡機能検査は、その名の通り平衡機能があるかどうかを調べます。暗闇でしばらく寝かされた後、明るい部屋で耳に冷風を当てることによってめまいを誘発するような検査でした。

私の場合、この平衡機能、つまり三半規管の機能もかなり乏しいことが判明。 昔から平均台が苦手なので自覚はありました。

医師の説明によると、視覚情報や深部感覚(目をつぶっても体がどこにあるかを認識する感覚)を統合して脳が処理するため、ある程度のバランス感覚は自然と身についていくんだそう。だから自転車に乗れるんだって。脳ってすごいですね。

平衡機能が正常な人の場合、手術で機能が低下して歩けなくなったり、めまいがひどくなることが懸念されるらしいです。私は既に機能していないため術後はめまいがなく回復も早いだろうとのこと。 医師には「我々としても気が楽です」と言われました…喜んで良いのだろうか。

その他の精密検査

他にも、以下のような検査を受けました。

  • 血液検査
  • 心電図
  • 胸部レントゲン
  • 聴性脳幹反応検査(ABR)
  • 遺伝子検査(希望者のみ)

術前カウンセリング

カウンセリングでは、人工内耳や手術に関する説明を受けます。ST(言語聴覚士)との対話で疑問や不安を解消することができます。

心理検査の結果をもとにリハビリの方針などを決めていくらしいのですが、肝心の結果を聞き忘れたのが心残り。あのときに書いた絵と作文はどんなふうに解釈されたんだろう。

そして手術の1ヶ月前に入院予約をしました。

手術当日から退院まで

入院準備と手術前夜

手術の数日前から入院。通常の入院グッズに加えて、筆談用のブギーボードを持参しました。

人工内耳手術の実績が多い病院であるにも関わらず、聴覚障害者への対応にあまり慣れていない印象を受けました。でも聞こえる患者の方が圧倒的に多いのは当然だし、仕方ないのかもしれません。

手術日前夜はさすがの自分でもかなりセンチメンタルに。 消灯が早く、テレビで気を紛らわせることもできずしょんぼり。本当にこれで良かったのだろうか。手術が失敗してもしものことがあったら、あの汚い部屋を家族に片付けさせるの申し訳ないなぁなんて考えていました。

手術当日の流れ

午前の手術だったため、当日は朝から慌ただしく、気づいたら手術室にいました。全身麻酔で4時間。本当に寝てる間に終わります。

起こされたときは寒気と強い眠気、空腹感しかありませんでした。麻酔の副作用で何度か嘔吐しましたが、術後3時間で水が飲めるようになり、その日の夜には食事をとることができました。

手術が無事終わった安堵と今後の不安で複雑な感情のなか食べた鶏ささみのロールキャベツとおかゆ。 全身に染み渡る美味しさでした。

術後の経過と回復

翌日にはすっかり元気。術後3日で抗生物質の点滴が取れ、普通に歩けるようになっていました。「平衡機能なくて良かったねえ」なんて言われて苦笑い。

術後5日間ほどは毎晩就寝前に痛み止めを飲みましたが、日中に痛みを感じることは特にありませんでした。それより包帯で巻かれた頭のかゆみと側頭部の異物感がつらかったです。

退院まで

術後1週間で頭の包帯がとれ、久々のシャワー。あんなにシャンプーを使った日は一生来ないでしょう。 来ないといいな…。髪質が変わったのかと心配になるぐらい、洗っても洗っても髪が脂っぽい日がしばらく続きました。

耳の裏の傷口を皮膚テープで塞いでいます。ここから魚のエラみたいに剥がして…と想像するのはやめましょう。

昔は側頭部の剃髪も必要だったそうですが、今は耳の後ろに傷跡が残るだけ。抜糸も不要です。

このときテレビでは樹木希林と安室奈美恵の話題でもちきり。聴力を失って興味がなくなっていた音楽ですが、また聴きたいなあと強く思いました。 人工内耳でどんなふうに聴こえるのか、期待と不安が半々。

術後10日で退院しました。

まとめ

術後7年たった今、手術を受けて本当に良かったと思っています。

私の場合、手術自体は想像していたより身体への負担も少なく、回復も順調でした。術後のリハビリのほうが、身体への負担、特に心理的負担が大きいかもしれません。

偏見や先入観にとらわれずにしっかりと情報収集をすることが、後悔しないコツだと思います。

この記事は、2018年に人工内耳手術を受けた個人の体験談です。人工内耳の効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるわけではありません。

手術を検討される場合は、必ず専門医の診察を受け、十分な説明を受けた上で判断してください。 最新情報については各医療機関にお問い合わせください。

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