前回は、人工内耳の聞こえが術後どのように変わっていくかを書きました。
記事にもある通り、人工内耳を装用すればすぐに健聴者のように聞こえるわけではありません。術後はリハビリが必要になります。
今回は人工内耳のリハビリと装用効果についてまとめてみました。
人工内耳と補聴器の違い
まず、人工内耳と補聴器の違いについて、ざっくり解説。
人工内耳と補聴器は、マイクで音を拾うところまでは同じですが、その後の仕組みが違います。
補聴器は、補聴器で加工された「音」が鼓膜を通過して神経細胞(有毛細胞)を刺激し、脳に伝わるしくみ。
この神経細胞が損傷している場合、いくら大きな音を感じ取っても歪んで聞こえてしまいます。そのため、声は聞こえても「何を話しているかわからない」状態になります。
一方、人工内耳は、サウンドプロセッサで加工された「電気信号」が、内耳に埋め込んだ電極(インプラント)を刺激して脳に伝わっていくしくみ。この電極が神経細胞の代わりになります。
なので手術してすぐ聞き取れるようになるわけではなく、リハビリを重ねて少しずつ脳に学習させる必要があります。そのため時間がかかるんですね。
リハビリとマッピング
リハビリでは、人工内耳のマッピング(調整)を行います。
私が通っていた病院の場合、リハビリの頻度は、術後の1ヶ月間は週1、その後は月1、年1と減っていきます。病院の方針や本人の生活スタイルによってまちまちです。
成人がリハビリする場合、言語獲得済み、すなわち、音や言葉の記憶が脳に残っていることが前提になっています。過去の記憶と新たな音を照らし合わせながら調整することにより、聞こえが少しずつ良くなっていきます。
子どもの場合はこのような調整が難しいため、教育機関と連携して発音指導も合わせるなど、また違ったリハビリ方法になるようです。
マッピングとは
人それぞれ聞こえの特性や感じ方が違うため、その人に合わせて、人工内耳の中に「音の地図」を作り上げる作業が「マッピング」になります。
私が使っているコクレア社の人工内耳の場合、インプラントの電極が22個なのですが、その各電極に対して、音量や感度の調整、設定を行います。
まず「なんとか聞こえる最小の音」を22回聞き、それぞれ同じぐらいの音量に感じるように調整。
これを「不快に感じない最大の音」「普通の話し声程度の音」に対してもそれぞれ22回ずつ行います。
音量は同じでも音の高さが違うため、途中で混乱してきます。私の場合、高い音を聞くとしばらく耳鳴りのように何度も響いて聞こえてしまう癖があるので聞き分けるのに苦労しました。
なお、メーカーによって電極の数も特徴も違うため、マッピングの方法も微妙に異なるようです。
海外移住の場合
私の場合は、移住する前に満足いくリハビリ効果が得られたため、移住先でのリハビリ予定は今のところありません。
ただし、引越しの際、いざというときのために人工内耳に関する書類をすべて英語で揃えてもらいました。
- 人工内耳に保存されている電子情報(USBディスク)
- 主治医の診断書(オージオグラム)
- 医療機関宛レター
海外留学や移住の予定がある方は早めに相談するといいと思います。人工内耳手術の実績があるような大きな病院は基本的にどこでも対応してくれるんじゃないかなと思いますが…断言はできませんのであしからず。
装用効果と個人差
人工内耳の装用効果には個人差があります。
もともと聴覚をどれだけ活用していたかどうかが影響するため、失聴時期や期間、育った環境などにも大きく左右されます。
また、病院や言語聴覚士の方針によってリハビリの仕方もそれぞれ、人工内耳メーカーによってもそれぞれ。装用効果を実感できるまでの時間も本当に人それぞれ。
「聴こえるようになった」と感じるまでに数年かかった人もいれば、中途失聴の人の中には、術後数ヶ月で健聴の頃と同じように聴こえる様になった人もいるらしいので、本当に千差万別。
特に、人工内耳についての経験談をブログに載せている人は、それなりの効果を実感している方が多いと思います。しかし、手術した人の中には期待通りの効果が感じられずに途中でリハビリをやめてしまう人も多いのが現状。
私の場合は聴覚障害をもつ友人たちからそのような話も身近に聞いていたため、のんびり構えることができたように思います。
人工内耳の聴こえ方がどんなものかは医者や言語聴覚士でさえわからないんだそう。
だから手術前に正確に装用効果を予測することはできないし、断言する事もできないと、私の主治医は言っていました。術前検査で判断できるのは、あくまでも人工内耳が装用できるか、適応できるかどうかということのみ。
私がいくらブログで熱く語ったって、本当のところは実際に手術した本人以外わからないんですよね。
どのぐらいの効果で満足できるかという基準も人それぞれ。
どこで自分が納得できるか、あらかじめ考えておいたほうがいいかもしれません。他人と比べるべからず。もし手術をするなら、自分なりの目標をたてて、焦らず諦めずリハビリに励むことが大事だと思います。
最後に
手術のリスクや適応の個人差などをふまえると「人工内耳おすすめだよ!」と言い切ることはできませんが、選択肢のひとつとして、どういうものか知ってほしいなと思います。
また、単なる「聴覚活用のため」だとか、「音声言語ができたほうが有利だから」という理由だけで人工内耳を選択するのはとても危険。少し聞こえが良くなったからといって生きやすくなるとは限らないし、むしろ認知度が低いために偏見の目にさらされることもあると思います。
また、人工内耳を装用しても手話はできたほうが便利。むしろ必要です。プロセッサを外したら聴こえないことに変わりはないですしね。
聴こえないからこそ見える世界もあれば、人工内耳や補聴器をつけているからこそ見えるものもあります。なのでどちらが良いとか悪いということはなく、それぞれの価値観を尊重したいと思います。
聴こえなくても、声が出なくても… 不便を感じない社会、誰もがお互い歩み寄って共存できる社会が一番理想なのですが、なかなか難しいですねえ。