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北海道出身、カナダ在住8年目。難聴。トロントでのワーホリと留学を経て、現在はカルガリーでひっそりと暮らしています。

人工内耳の音入れから6ヶ月の記録【聞こえの変化】

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シャボン玉が浮かぶ空間で両耳を手で抑えたピンク色の猿のぬいぐるみ

2018年9月、右耳に人工内耳手術を行った私の術後半年間の記録。

人工内耳は補聴器とは違い、時間が経つにつれて少しずつ聞こえが変わっていきます。私の場合、人の声がまともに聞き取れるようになるまで半年かかりました。

人工内耳で初めて音を聞いた日から7年。今ではすっかり馴染み、補聴器より格段にきこえが良くなったと感じています。

この記事では、音入れから6ヶ月間の聞こえの変化を、当時のメモをもとに詳しく記録しています。

人工内耳の効果には個人差があります。あくまでも体験談のひとつとして参考にしてください。

目次

音入れ当日

術後3週間で音入れ。傷が落ち着いてからサウンドプロセッサをつけて初めて音を聞くことを「音入れ」といいます。

音入れの衝撃

一番最初に聞いたのは「きこえる?」という姉の声。衝撃で涙が出そうになりました。

とても人間の声とは思えませんでした。とても無機質で、まさに電気信号を変換しそびれたような声、というより音。

記憶の中の姉の声はもう聞けないのだろうか。

音入れ直後の音は「とにかくひどい」という情報を事前に仕入れていたため、覚悟は決まっていたつもりでした。

それでもやはりショックで平静を装うのに必死。人の声は特に「ロボット」「ドナルドダック」のような表現をよく見かけましたが、本当にその通りでした。

音はするけど何の音なのか、声なのか、全く判別ができない。

「きこえるけどきこえない」としかいえないのが正直な感想でした。

ほのかな希望

その後、病院の帰り道に馴染みのカレー店へ。以前はキッチンの音やBGM、人の話し声など雑音が多く騒がしいところでした。

でも今日は人の声らしきものが聞こえる。まだ人の声として認識することはできないけれど、目の前で話している人の声が「音」として聞こえる。

静かでもなくうるさくもなく、なんとも言えない不思議な感じ。「騒がしい店」だと思っていたのは自分だけだったのかもしれない、と気づきました。

「人工内耳すごいかもしれない…」ほんの少し希望が持てた瞬間でした。

音入れ1週間

言語聴覚士によると「聞こえる音が何の音か」を逐一確認しながら慣れていくため、音入れ後はできるだけ聴者と一緒に過ごした方がいいとのこと。術後は姉の家にしばらく泊まりました。

一番変化を感じたのが最初の1週間。脳が育っていく感覚は感動モノでした。

翌日:記憶の音との違い

今まで聞こえなかった音が聞こえ、聞こえていた音が全く聞こえない。聞き慣れていたはずの街の音も違和感半端ない。悲しくなるほどでした。

何もかもが記憶の音と違う。私の場合、30年以上補聴器で聞いてきた音が「記憶の音」。人工内耳の音は、その記憶とは全く異なるため、脳が混乱するのは当然。

特にタッパーやペットボトルなど、プラスチックを叩く音が金属音のように聴こえるのが不快でした。テレビの音はとにかく不明瞭。話者によっては口パクかと思うぐらい何もきこえない。

それでも一番聞きやすかったのはアナウンサーの声。不明瞭なのに変わりはないけど、スッと通るような音がする。やっぱり訓練してる人の声は違うんですね。

3日目:音の「輪郭」

変化が出てきたのは3日目から。

急に水の流れる音がきこえ、昨日よりテレビの音声がきこえる。 そんなふうに毎分毎秒、日々少しずつ音に輪郭ができていく感じ。楽しくなってきました。

でも音に対して神経質になりすぎたのか、三日目の夜は術後最悪の耳鳴りで眠れず。後にも先にもこの時だけ。少し気を抜こう。

4日目:音の学習

衣擦れ音、肌を叩く音、掻く音、爪切りの音がすべて「ピロンピロン♪」と電子音のように聞こえる。

肌を掻く音ってどちらかといえば「ポリポリ」に近いと思っていたけど、これが本来の音なのだろうか…?頭というより脳が混乱していました。

今まで認識していた音って一体何だったんだろう。 無意識のうちに、漫画などで学んだ擬音語をもとに音を認識していただけなのかもしれない。

脳が「人工内耳の音」を学習するというのはこういうことなのだろうか?この音を???大丈夫???という気持ちになります。人によってはストレスを感じて発狂してしまいそうです。

この頃は音を聞くたびに頭の中が「?」だらけでしたが、このような違和感は少しずつなくなっていきます。

5日目:補聴器との違い

街中、駅、電車の中がただ騒がしいだけではないことに気づきました。

首都高の高架下にいても、車のタイヤが回る音がそれぞれ区別できる。それまでは「たくさんの車が走る音」というひとかたまりの音だったのが、信号で止まる車や発進する車、走行中の車の音、それぞれが分離して聞こえるようになりました。すごいなと思いました。

補聴器のように、全ての音が一気に入ってくる雑音とは違う。 耳の遠くなった祖母が「補聴器はうるさい」と言っていた意味が今になってやっと理解できました。

補聴器で育った私にとってはその雑音が当たり前すぎて、あまり「うるさい」と感じたことがありませんでした。

「うるさい」ってなんだろう。自分の中で「騒音」や「雑音」の概念が変わったのが5日目。

6日目:コンビニのBGM

救急車のサイレン音やチャイムの音に不快感がなくなりました。むしろ、補聴器のときより若干低く落ち着いて聴こえる。

久々に入ったカフェでは、コーヒーメーカーの音やシェイクする音、隣のビジネスマンのキータッチ音など、席に座っていても色々な音がはっきり聞こえることに感動。でも7年経った今では全く気にならないし、意識しない限り全然わかりません。笑

コンビニによってBGMに特徴があるのを初めて知った日。

7日目:生活音

ふと、隣人のシャワー音や足音が聞こえることに気づきました。 違和感があった掃除機の音も、前日より自然に聞こえる。

それまで「夜中の掃除洗濯シャワーが迷惑」だということを知っていても、ピンとこない感覚がどこかにありました。実際に聞くことで実感がわきますね。

人の声は相変わらず不明瞭なまま。そもそも「声」として認識できないため、名前を呼ばれても気づくことができない状態でした。

音入れ1ヶ月目:鳥の声

職場復帰を前に、小笠原諸島へ一人旅。船で片道24時間の長旅でした。

到着してすぐ公園で休憩。笛みたいなきれいな音がするなぁ、なんの音だろうと振り向くと、2羽の鳥が追いかけっこしていました。

気づいた瞬間、目の前に広がる自然の美しさも相まって思わず感涙。

半日の登山ツアーでも、鳥や動物の鳴き声が聞こえるたびにガイドさんが解説してくれたので楽しめました。その中でも人生で初めて聞いた生のヤギの声。 ヤギってほんとに崖に登って「メェ」と鳴くのだなあ…と感動しました。

自然の中にいると、静けさの中にも風の音や水の音など本当に色々な音がします。補聴器時代も一応聞こえてはいたのですが、より繊細に聞こえるようになりました。

術後ずっと都会のど真ん中で生活していたので、こうして大自然の中で過ごすのはいいリハビリの機会になったと思います。自然の音もまた脳を多角的に鍛えてくれる気がします。

音入れ2ヶ月目:職場復帰

術後1ヶ月弱で職場復帰。職場の音も手術前と明らかに変わりました。 キータッチ音、コーヒーをすする音、遠くから聞こえる話し声。静かだと思っていた職場が想像以上にうるさくてびっくりしました。

このときはまだ人の声は不明瞭なままなので読唇をフル活用。「耳良くなってよかったね」と言われるたびに複雑な気持ちになりました。

特に、低い声、年配の男性の声がとても聞き取りづらかったです。

このときは「女性の声」「男性の声」と視覚情報をもとに判別していましたが、実際は声だけで男女の判別はできませんでした。低い音と高い音の区別がまだ曖昧なまま。

脳が一生懸命学習しているんだろうな…処理完了するまで気長に待とう。AIを育てているような気持ち。

そして「人工内耳(インプラント)を埋め込みさえすれば、聴者と同じように聴こえる」と考えている人の多いこと多いこと。世間の人工内耳に対する認知度はまだまだ低いですね。

音入れ3ヶ月目:音の立体感

聴こえる音が格段に増えたと実感したのが3ヶ月目。 耳に入る音の幅が広がり、音に立体感が出る感じ。全体的に音の質が変わったような感覚を覚えました。

ある日の通勤途中、いつものように改札を通ると「ピッ」…いきなり Suica のタッチ音が聞こえました。

電車のアナウンスもある日急にすべて聞き取れるようになりました。 それまでは到着駅名しか聞こえなかったのが、ドアが開く方向、忘れ物予防、乗換案内まで。知識としてそういうアナウンスがあることはなんとなく知っていましたが、実際に聞くとあまりの丁寧さに脱帽。

ただしすべての路線ですべてのアナウンスが聞こえるわけではなく、乗り慣れた電車、聞き取りやすい声、周りの雑音などにも左右されます。

音入れ4ヶ月目:聴力検査

音入れから3ヶ月が経過し、人工内耳をつけて初めての聴力検査。結果は 30dB でした。人工内耳装用後としては平均的な結果だそう。(補聴器装用での聴力検査をしたことがないため、客観的に比較することはできません)

聴者が補聴器を検討し始めるのが30〜40dB。通常の会話が聞き取りづらくなるレベル。数字が大きいほど聴力が下がります。

さまざまな音が聴こえるようになる一方、人の声に関しては補聴器の方が良かったと後悔してしまうぐらい、このときはまだ不明瞭でした。 声は聞こえても、言葉が思うように聞き取れずもどかしい思いをすることが多かったです。

人間の声は「色んな要因が複雑に絡み合った音」なので、脳が声として処理するのに時間がかかるんだそう。 頑張れ脳。

音入れ5ヶ月目:帰省

久々の帰省。住み慣れた街の音が大幅に変わったことを実感。

ショッピングセンターの中もただの雑音ではなく、店内の様々な物音、色んな人の声や足音が混ざって雑音になっているのがはっきりわかる感覚。

そして、いつも聞き返してばかりでまともに会話ができなかった叔父とスムーズに会話ができたときは、私以上に叔父が驚いていました。

人工内耳で聴こえる音が増えることによって「うるさい」と感じるかどうかは個人の性格にもよる気がします。私は鈍感な方なので逆にいろんな音を楽しめています。補聴器で雑音に慣れていたのもあるのかもしれません。

音入れ6ヶ月目:人間の声

半年経つ頃には、良くも悪くもすっかり馴染んでいました。 以前のような音の変化に対する感動も激減。

必死に記憶の中の音と比較して一喜一憂していた頃と比べると、いい意味で音に対して鈍感になったのかもしれません。当初のちぐはぐ感はなくなり、不自然だった数々の音も今では自然な音に変わっています。

それと同時に人の声が明瞭に聴こえるようになってきたと実感したのもこの頃。 無機質だと感じることは全くなくなり、人間の声として違和感なく聞き取ることができるようになりました。

気づけば男女の声も判別できるようになっていました。いつの間に?自分でも不思議です。

ただし、言葉が歪んで聞こえることに変わりはありません。単語の聞き取りはかなり向上しましたが、100%理解するのは難しいまま。読唇は必要だし、テレビも字幕は必要です。そのあたりは補聴器と変わりません。

カナダ移住

術後9ヶ月の2019年6月、カナダへ移住。 失聴で一度諦めかけたカナダ行きでしたが、リハビリの効果が予想以上に早く、予定通りに準備を進めることができました。

カナダについて着いてまず感動したのがやっぱり地下鉄。左右どちらのドアが開くかアナウンスするのは世界共通だということを知りました。でもそれ以外余計なことを言わないのが日本よりシンプルで良い。

英語の音、特にSやFの音も前より聞き取りやすくなりました。

でも英語は第二言語(手話も入れたら第三言語だろうか)。音声を聞いただけで何を言っているか理解できるようになるには日本語以上に時間がかかるだろうし、限界もあると思います。読唇もまだまだ…なのでもっと勉強しないと。

最後に

人工内耳は完璧ではありません。しょせん機械であることに変わりはありません。

いったいいつになったら世界は「正しく」聞こえるようになるのか
サイボーグとして生きる

人工内耳をつけたとしても、正しく、つまり本来の「聞こえる世界」を知る術はないんだろうなと思います。

補聴器と人工内耳の音が全く違うのと同じように、人工内耳の音と聴者がきく音は全く違うのだと思うと、虚しい気持ちになることもしばしば。

ただ、長年補聴器を装用した身からすれば、人工内耳をつけてみて良かったと本当に思います。 この歳で聴力が落ちたのもなんかの縁、ある意味良いタイミングだったと思っています。

何より、音に立体感が出るこの感覚は補聴器で味わうことはできません。

7年経った今でも、ある日突然「あ、この音が前より聞こえるようになってる」と気づくことがあります。

まだまだ可能性を感じる人工内耳。これからまたどう変わっていくか楽しみです。


この記事は、あくまでも個人の体験談です。人工内耳の効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるわけではありません。

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