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【ASL】手話は世界共通ではない?カナダで使われる手話まとめ【アメリカ手話】

手話は世界共通の言語ではありません。
日本では日本手話(JSL)、北米ではアメリカ手話(ASL)が主に使われています。
難聴者として育った私は、18歳で日本手話と出会い、29歳のときにカナダでASLを学びました。
私にとって手話は第一言語ではありませんが、大切な言語のひとつです。
この記事では「カナダで使われる手話」について、ASLを中心にわかりやすく紹介します。
手話は世界共通ではない
現在、世界には約300種類の手話があると言われています。
日本語・英語・フランス語がそれぞれ違うように、手話も地域や文化の中で独自に発達した言語。
同じ英語圏でも、使われる手話は国や地域ごとに全く違います。
| 国 | 名称 | 略称 | メモ |
|---|---|---|---|
| アメリカ | American Sign Language | ASL | フランス手話がルーツ。世界で最も普及している手話の一つ |
| イギリス | British Sign Language | BSL | オーストラリア・ニュージーランド手話の元 |
| カナダ | American Sign Language/Langue des signes québécoise | ASL・LSQ | 英語圏でASL、仏語圏でLSQ。2019年法的認知 |
| オーストラリア | Australian Sign Language | Auslan | BSLから発達。北部方言と南部方言あり。 |
| ニュージーランド | New Zealand Sign Language | NZSL | BSLから発達。マオリ語由来の手話も含む。2006年公用語指定 |
アメリカとイギリスでは、アルファベット表現(指文字)もまったく違います。ASLは片手、BSLは両手を使います。
また、同じASLでも、アメリカとカナダでは一部の手話表現が異なります。
さらに、カナダ東部のフランス語圏ではケベック手話(LSQ)が使われていますが、これはフランス本国のフランス手話(LSF)とは別の言語です。
音声言語と同じように、手話にも多様で複雑な地理的・歴史的背景があります。
The Legal Recognition of National Sign Languages ‐ 世界ろう連盟 (英語)
国際手話(IS)
ただし「世界共通の手話はない」というわけではありません。
国際手話 (International Sign = IS) というものがあります。
世界ろう会議やデフリンピックなど、国際的な場では国際手話が使われます。
各国で使われている手話を参考に、共通の表現をもとに理解しやすいように工夫されています。
とはいえ、国際手話も言語なので「簡単に習得できる」というわけではありません。
カナダで使われる手話
COVID-19 のパンデミック以降、日本と同じくカナダでも手話への関心が高まりました。
特にBC州では、手話通訳者のファンクラブまで作られるほど注目されました。オンタリオ州でも、州知事が手話通訳者を称賛したことが話題に。
CBC News – ASL interpreters win fans during COVID-19
言語として認められた手話
広大なカナダには多くの手話がありますが、その中でも ASL と LSQ が最もよく使われています。
- アメリカ手話(ASL)
- ケベック手話(LSQ)
- 先住民手話(Indigenous Sign Languages)
2019年、Accessible Canada Act というアクセシビリティに関する法律がスタートしました。これによりASL、LSQ、先住民手話が「ろう者の言語」として法的に認められました。
特に、首都オタワや大都市トロントがあるオンタリオ州では、教育、立法、司法の場において、ASL と LSQ の通訳が保障されています。2021年からは中学校の第二言語科目としてカリキュラムに組み込まれました。
ただし、国の公用語として認められているわけではありません。カナダの公用語は今も英語とフランス語のみ。
手話通訳の提供には地域差があり、地方ではまだ不十分なところも多いのが現状。予算や人材の不足により現実はそう上手くいかないようです。
- Summary of the Accessible Canada Act ‐ カナダ政府公式
- Recognition of Sign Language as an Official Language Act ‐ オンタリオ州議会
アメリカ手話 (ASL)
カナダで最も話されている手話言語は ASL (American Sign Language) です。
フランス手話が起源の ASL は、アメリカ東海岸で他の地域の手話と混じり合って進化し、カナダにも伝わりました。
ケベック手話 (LSQ)
LSQ (Langue des signes du Québec) は、ASL と並んでカナダ国内で2番目に多く話されている手話言語。主にケベック州を中心としたフランス語圏で使われています。
ASL と LSQ は、どちらもフランス手話にルーツを持ちながらも、異なる文化圏で発達した別の言語。そのため、ASL を知っていても LSQ が分かるとは限りません。
先住民手話 (Indigenous Sign Languages)
現在は使用者が少なくなっている先住民の手話ですが、主に以下が知られています。
マリタイム手話 (Maritime Sign Language)
マリタイム手話はイギリス手話由来の手話言語。かつてはノバスコシア州、ニューブランズウィック州、プリンスエドワード島など大西洋岸 (Maritime) の地域で使われていました。
最近は ASL との混合により、マリタイム独自の ASL が生み出されています。
平原先住民手話 (Plains Sign Language)
平原手話(平原先住民手話とも呼ばれる)は、北米(アメリカ・カナダ・メキシコ)において最もよく知られた先住民手話。
きこえない人同士だけではなく聴者の間でも、PSLは交易の場で使われていました。音声言語が通じない人々が効率よくコミュニケーションをとる方法として発展してきた歴史があります。
イヌイット手話 (Inuit Sign Language)
イヌイット手話は、イヌイット語で IUR とも呼ばれ、主にカナダ北極圏で使われている手話言語。
絶滅寸前の言語ですが、今でも保護活動が行われています。
手話 (ASL・LSQ) で「カナダ」
国名「カナダ」の手話も、ASL (アメリカ手話) と LSQ (ケベック手話) で表現が異なります。
左が LSQ、右が ASL です。「Canada」は 0:05 から。
LSQでは「C」で虹を描くように、ASLでは親指を立てて胸にとんとんと当てます。
日本手話の「カナダ」もまた違う表現になります。よく見るのは「Cを胸にとんとん」ですね。詳しくはこちら。
アメリカ手話 (ASL) と英語対応手話 (SEE / PSE)
アメリカやカナダで使われる手話はASLですが、英語対応手話(SEE、PSE)を使う人もいます。
この3つの違いについてさっくり説明します。
ASL (American Sign Language)
ASL(American Sign Language)は、主に北米で使われている手話。
ASL の歴史は200年以上前にさかのぼります。当時フランス手話がアメリカに伝わり、自然言語として長い年月をかけて発達し、現在の ASL の形になりました。
視覚言語として確立されており、文法も話し言葉の英語とは完全に異なります。顔の表情、腕や肩の動きも活用して表現します。
ASLの基本的な文法は、トピック・コメント構造。先に「何」について話すか、トピックを先に出してからそれについて話します。これは英語のSVO構造と逆です。
store – I – go
SEE (Signing Exact English)
SEEは、ASLの表現を借りて、英語の文法と完全に対応した手話。
ろうの子供に対する英語の文法指導や口話指導などで発声しながら使われたりします。
特徴は英文法に重点を置く点。話し言葉の文法的順序に沿って、一語一語、正確に手話単語へ翻訳するイメージ。
以下のように、文中の全ての単語に手話を対応させながら話します。
I – go – to – the – store
SEE (Signing Exact English) – ASLU
PSE (Pidgin Signed English)
PSE は、ASL と 英語 を組み合わせた手話。Contact signing とも呼ばれます。
PSEの P は、2つ以上の言語から派生した言語をさす「pidgin」からきています。
SEEと同様に、英語の語順に沿っていますが、to や the などは省いて表現します。
口話を中心に話す難聴の人はPSEを使う人が多いです。
I – go – store
Contact Signing / Pidgin Signed English – ASLU
日本の手話
日本語による日本の手話情報はたくさんあるため、ここは軽めに。
日本でも解釈は色々あるものの、大きく分けて日本手話 (JSL) と日本語対応手話があります。
手話講習会や通訳養成でも、これらを混同しているところが多いのが問題になっています。(最近は変わってきてるかも)
ASLを学ぶには
ASLを学びたい人向けにコツをまとめました。
とにかく手話る
ASLを学ぶには、ろう者と直接話すのが一番早いです。正しい表現を身につけることができます。
お近くのASLクラスやコミュニティに参加してみましょう。英語学習と同じで、とにかく「生の手話」に触れるのが一番の近道。
カナダでは、どのクラスやワークショップもろう者が教えています。ASLを第一言語とする講師から学ぶのが当然という認識が根付いています。
日本でも日本ASL協会を筆頭に、たくさんのASLクラスがあります。
独学におすすめ ASLU (lifeprint.com)
カナダでASLを学ぶ人の間でよくおすすめされるのが 「ASLU」です。ASLUは、カリフォルニア州立大学で20年以上ASLを教えている Bill Vicars 氏のコンテンツ。
Webサイトは少し使いにくいですが、無料とは思えないボリュームと質。ASL Dictionary (ASLの辞書機能) が使いやすく、必要な表現をすぐ調べられます。
YouTube は、2025年の今も更新されています。
また、Googleで「ASL 知りたい単語」で検索すれば、ほぼこの方の動画が出てきます。
ただし最近は SNS でも手話で発信する人が増え、良質な手話コンテンツや学習アプリも増えました。いろいろ探してみてください。
オンライン英会話のASLレッスンに注意
日本の有名オンライン英会話サービスがASLコースを提供していますが、正直オススメしません。
レッスン動画をいくつか拝見したのですが、質が低すぎると感じました。ASLは、英会話の講師が片手間に教えられるようなものではありません。
ASLに限らず手話は、手話を第一言語とするネイティブから教えてもらうのがもっとも確実です。
まとめ
“ASL is a beautiful language.”
カナダで暮らす中で、ASLが「美しい言語」と言われる理由が分かるようになりました。
対応手話と比べて、本来の手話(ASLや日本手話)は言語として洗練されています。視覚的に美しいというだけではなく、表現豊かで深い文化と結びついているのが手話の魅力。
自然言語として発達した手話の奥深さを知ることで、手話への価値観も大きく変わりました。
もっと多くの人に興味を持ってもらいたいなあと思います。

